ほのおのにっき

ウルトラマラソンランナー

ほのおのにっき 2017年10月4日

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時刻は午前2時、標高1400m、気温マイナス10℃。月明かり届かぬ闇の中、ハンドライトの灯りだけを頼りに進むその男の髪の毛は白く凍りついてしまっている。

「あいつは誰だ。」

 

彼は中濃消防の職員H、いわゆる「ウルトラマラソンランナー」である。

 

※ウルトラマラソンとは、フルマラソン(42.195km)以上の距離を走る競技であり、100kmの大会がもっとも多い。160kmの山岳レースや、短い周回のコースを24時間が経過するまでひたすら走り続けるレースもある。

 

非番には20~30km、公休にはもっと長い距離を走り、雷や台風、警報が出ている場合を除けば全天候が練習日である。「大雪に猛暑、天候が過酷であればあるほど燃える」と彼は満面の笑みで語った。6月に挑んだ「飛騨高山ウルトラマラソン」では、全ての上り坂を合計した累積標高が2489mという全国屈指の難コースの中、100kmを10時間以内に走り切る「サブテン」を達成した。ちなみにその時、95km地点で彼は感極まって泣いてしまったらしいのだが、その理由は「あきらめない自分に感動した」かららしい。

 

いかに体力が資本と言われる消防職員であっても、彼のような馬鹿げた距離を走るランナーは決して多くなく、先輩職員からは「走る虫」と呼ばれている。いったい何故そこまでして走るのか、そう尋ねると彼は神妙な面持ちでこう語った。

 

「わからないから走っている。」

 

強靭な体と心が必要とされる消防士にとって、ウルトラマラソンは良い趣味なのかもしれないが、「開いてはならない扉」がそこにあると感じたのは私だけだろうか…。

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