消防署(所)が所有する機械器具等の中で、混合燃焼機関による動力で動く機材等は…?救急車・広報車・ホースレイヤー・可搬ポンプ・エンジンカッター・チェーンソー・発電機etc…。このような混合燃焼機関を有する機械の要となる部品が気化器(キャブレター)です。日本製の気化器(キャブレター)の歴史は1932年2月に株式会社日本気化器製作所(現在の株式会社ニッキ)が創立され、わが国唯一の気化器の専門工場として気化器は産まれました。
余談ですが、海外ブランドで有名なSOLEX(ソレックス)は、1900年初頭フランスで産まれました。1923年イタリヤのボローニャでウェーバが産まれました。国産ブランドの三國(ミクニ)は1960年初頭、フランスのソレックス社とライセンス契約を結び生産開始。1956年には株式会社京阪精機製作所(株式会社ケーヒン:2020年本田技研工業子会社となる)を設立し生産となります。
気化器(キャブレター)の役目とは?
気化器(キャブレター)は、ガソリン等(混合ガソリン)を燃料とする混合燃焼機関において燃料を空気と混合する装置です。発動機等の気化器は、複雑な機能が求められ、アクセル・スロットルの開度に応して適正な空気と燃料の混合気を生成するだけではなく、混合燃焼機関の負荷や回転数に応じて混合気(空燃比)を適切に調整する機能が組み込まれています。
気化器(キャブレター)の仕組みは?
液体燃料用の気化器(キャブレター)は、燃料タンクから送られて燃料を一旦燃料チャンバー(小さい燃料タンクのような物)で溜められ、その溜められた燃料に一端が浸かるようストロー状の細い管(ジェット)が設けられ、混合室内(空気の流路を細く絞った空洞)を流速が増加した空気が通過する時に、
ベルヌーイの定理により静圧が低下、チャンバー内は大気圧に保たれいため、ストロー状の細い管(ジェット)よりベンチュリー(混合室)内へと燃料が吸い出される。霧状に吸い出された燃料は、ベンチュリー(混合室)内で蒸発しながら拡散し空気と混合、混合気となりマニーホールトを経て混合燃焼機関内に流れプラグにより爆発し動力となります。
寒くなると混合燃焼機関(エンジン)がかかりにくくなるのはなぜ?
先に説明した混合気は、例えばガソリン混合燃焼機関(エンジン)の場合の空燃比(混合気=ガソリンと空気)は、ガソリン1:空気14.7が理論的空燃比ですが、環境条件によって空燃比は変動します。例えば寒くなる季節は空気の密度が大きく(酸素量が多い)なり、反対に夏は空気の密度が小さく(酸素量が少ない)なります。冬季にエンジンがかかりにくい原因の1つとして、ベンチュリー(混合)室内で蒸発拡散した燃料の量は同じなのに、冬季は空気の量が夏季に比べ多くなり、適切な混合気が気化器(キャブレター)で作られないためエンジンがかかりにくくなります。
寒いときにチョークを使用するのはなぜ?
寒い時や、始動性に欠ける時にチョークを使用しますが、空気の量に関係します。寒くなると混合燃焼機関(エンジン)がかかりにくくなるのはなぜ?で説明したとおり、冬は空気の量が増えるのに燃料の量が同じでは適切な混合気が作れません。
よく言われる例えの言葉が『燃料が薄い!』などといった言葉を聞きますが、この際に使用するのがチョーク(Choke)です。みなさんお気付きですか?チョークサイン…名前のとおり『通路をふさぐ』の意味があるとされており、故意に息苦しくさせるために空気の通路を一時的に機械で塞ぎ、空気の量を減らし、空燃比における燃料を濃くさせ始動性の向上を図る装置をチョークといいます。これで寒い時に使用するチョークの必要性が解ったと思います。
夏と冬、空気の密度に違いがあるなら、空気の量を調整しようぜ!!
チョークを使用してもエンジンがかからない…かぶって(燃料によりプラ
グがベタベタになる事)しまうこと。こんな事ありませんか?
地域的には『生(ナマ)くう』と言う地域もありますが…。
チョークは一時的に使用する装置であって、継続的に使用する装置ではありません。(エンジン始動時全閉・暖気中半閉・暖気終了後全開)
気化器(キャブレター)には空燃比を微調整できる箇所が1つあります。
本文冒頭に記載 混合気(空燃比)を適切に調整する機能 その機能が『アイドルスクリュー』と言い、気化器(キャブレター)に施される空気の量を調整するネジを言います。
アイドリングが安定しない・回転が上がらない・エンストしてしまうetc。
また空気と燃料の量が適正でない→始動性が悪い→エンジンがかからない→かぶる・生くうに繋がります。
アイドルスクリューの役目は、夏季・冬季関係なくその場・その時の気温等でスロットル・アクセルが一定の時(アイドリング時)に空気量を微調整し、調整値の範囲内で一番エンジン回転が上がった時が適切な混合気となるよう調整ができる機能です。
調子が悪くなったらお試し調整方法
① アイドルスクリューネジを時計回りにやさしく締め込み、回らなくなっ
た所から反時計回りに1回転~1回転半回転します。
② 寒冷時にはチョークを使用しエンジンを始動させます。
③ エンジンがかかったらチョークを半戻します。暖気後は戻します。
④ エンジンの回転音を聞きながらアイドルスクリューネジを時計周り(濃くなる)又は、半時計回り(薄くなる)に少しずつ回転させ、エンジン回転が最高の位置を探ります。
エンジンカッターやチェーンソー、発電機等は、カバー等の取り外し作業が必要です。
気象条件による混合気の変化
気象条件 | 気 象 | 空気密度 | 混合気 | 調 整 |
気 温 | 高い | 少ない | 濃い | 薄くする |
低い | 多い | 薄い | 濃くする | |
湿 度 | 高い | 少ない | 濃い | 薄くする |
低い | 多い | 薄い | 濃くする | |
気 圧 | 高い(高地) | 少ない | 濃い | 薄くする |
低い(低地) | 多い | 薄い | 濃くする |
プラグ(U溝接地電極付近)の焼け色で混合気(空燃比)の判断ができます
※ 燃焼機関が古いとプラグ周辺の碍子部分が黒くなりやすいので判断注意です。
黒 色 → 空気が少ない。
キツネ色(こげ茶)→ バッチリです。
白 色 → 空気が多いです。
終わりに
今後、ECU(コンピュター)制御化された電子制御式キャブレターを標準とした可搬ポンプやエンジンカッター等が普及する時代が来るかもしれませんが、軽量で単純なメカニズムのアナログ式キャブレターを主力とした消防機器はまだまだ現役健在です。これを機に、混合燃焼機関及びキャブレター等の維持管理方法を養い、現場でのトラブル回避及び排ガス環境への配意等、知恵袋となれば幸いです。
用語集
アイドルスクリュー又はエアスクリュー
空気の量を調整するネジです。
パイロットスクリュー
混合気(空気・燃料が混ざった)の量を調整するネジです。
メインジェット
ガソリンを供給するメイン管(中速~高速又は、中回転~高回転)
スロージェット又はパイロットジェット
スロットル又はアクセルが開いてない時にガソリンを供給するサブ管(低速~中速又は、低回転~中回転)