ほのおのにっき

遭難者

ほのおのにっき 2021年11月24日

「登山をしていたが迷って下山できない。」

通報時、指令員が入手した遭難者の位置座標はとんでもない山奥を示していた

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中濃消防管内の大部分は山に覆われており、展望の良い瓢ヶ岳や蕪山には毎年多くの登山者が訪れて楽しんでいる。この季節に山頂から見える、冠雪した白山連峰や日本アルプスの峰々は息を飲むような美しさだ。しかしながら当管内の山は奥が深く、整備された登山道で行くことができるのはほんの入り口に過ぎない。その入り口から一歩、足を踏み入れるとまさしく未開の秘境がある。私はひょんなことからその山域へ踏み込んで以来すっかりハマってしまい、何年もその地に通い続けている。道なき道を進んだ先に現れる、ふと時間が流れることも息をすることも忘れてしまうような、あるいは異世界に迷い込んでしまったかのような景色に圧倒され、なによりそんな場所が日本どころか地元にあるという事実に私の心は奪われたのだ。

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今回遭難者が迷い込んでしまったのもそんな深い山の中だった。

登山道しか歩いたことのない人にはまずたどり着くことのできない場所。

文字通り山を越え谷を越えの捜索活動となり、捜索開始から下山までに掛かった時間は優に10時間を超えた。

無事な姿の遭難者を発見した時、私の中には安堵の気持ちが溢れ、おそらく他の隊員もそうであったと思う。

危険な山で生き残るため、常軌を逸したトレーニングに身を投じてきた。時には現実離れした恐ろしい景色を目の前に、膝が震えてまともに力が入らないこともあったが、それでも私は深い山に入り続けた。しばしば周りから、「どこを目指しているの(笑」という質問を投げかけられたが、それは当然の疑問であったと思う。なぜなら私自身もその答えがわからなかったから。

「私は単なるスリルジャンキーなのだろうか。」「この道はどこにも通じていないのだろうか。」

自分がどこへ向かっているのか。わからぬままもがき続ける遭難者のような日々。暗い森から猛烈な藪をかき分けて出たその先には、目もくらむような眩い命の輝きがあった。