日本を代表する話芸といえば落語。話ベタな私にとって、落語家は憧れの職業です。
寄席の高座に上がり、扇子と手ぬぐいを巧みに使って、たった一人で老若男女すべての登場人物を演じ分ける芸術。聴き手は想像力を膨らませ、頭の中に情景を描き出すことで、極上の笑いや涙に誘われます。
この魅力に取りつかれ、どうしても生の落語が聞きたい。そんな思いから東京の寄席に足を運ぶようになって5年。今では年に一度のビックイベントになりました。話芸の妙に触れ、時に抱腹絶倒。プロから直に話し方を学ぶことができるうえ、溜まったストレスを吐き出す至極の空間です。
私たちの仕事は人と会話することはもちろん、大勢の前で話をする機会が多くあります。たとえば火災や救急の現場、立入検査に出向いた事業所、幼稚園保育園や学校で行われる命を守る訓練、地域が行う自主防災訓練などなど。聴き手は小さなお子さんからお年寄りまで年齢の幅は相当広いです。
こうした場面では、相手に理解できる最適な言葉を選び、こちらの考えや思いをちゃんと伝えなければなりません。そのために特に大切なのが『話の間』だと私は考えています。
聞き入ってしまうような話ができる人は、間の取り方がとても上手です。話し上手な人は、聴く側の反応を見ながら必ず間をとり、心をぐっと引き寄せるために一瞬の沈黙をつくります。避けたいのは、この間に「あのー」「えー」などと声を発してしまうこと。なぜなら話を理解し、想像させる時間を聴き手に許容しないからです。『話の間』すなわち一瞬の沈黙は、相手への心づかいなんですね。